ある日の夜、夫婦の夕食後のリビングでの出来事だった。夫の健一は、テレビの前で新聞を読みながら、少し頭をかしげていた。「やっぱり、今のこの時期に投資信託を増やすべきかな…?」と呟いた。妻の美咲はそんな彼を見ながら、ほほえんだ。
「ねぇ、健ちゃん。私たちの結婚生活だって、ある意味、投資みたいなものよね」と、美咲はキッチンの片隅から冗談めかして声をかけた。
健一は新聞を下ろして、驚いた表情で振り返った。「えっ?どういう意味?」
「例えばさ、最初に付き合い始めた頃って、私たちもお互いに元本を注ぎ込んでたでしょ?」美咲はソファに座りながら、ニコニコと続けた。「愛情っていう資本を。で、あの時はどうなるか分からなかったけど、お互いに信じて続けてきたでしょ?」
健一は目を細めて考え込みながら「まぁ、確かに。あの頃はリスクが高かったかもしれないな」と苦笑いを浮かべた。
「でも、今となってはどう?結構、いい配当が出てるでしょ?」と、美咲は少し得意げに言った。
「配当かぁ…」健一は少し間を置いて、「確かに、家事も助けてくれるし、あのアップルパイは高配当だな」と冗談めかして言った。
「そうそう。私もね、健ちゃんの優しさや、疲れて帰ってきても笑顔で話しかけてくれるところが、私の投資に対するリターンだと思ってるの」と美咲は真面目な顔で答えた。
健一は少し照れくさそうに頭をかきながら、「でも、時々、経済状況が悪化して、マイナスになることもあるんじゃないか?」と尋ねた。
「そりゃあ、そうよ。夫婦の関係だって、景気の波に乗る時もあれば、不況になることもある。でも、だからこそ、長期で見なきゃダメなのよ。結婚っていうのは短期的な利益を狙うんじゃなくて、長期で育てる投資なの」
「なるほど、確かに。短期でリターンを求めすぎたら、すぐに大変なことになるかもしれないな」と健一は頷きながら、思わず美咲を見つめた。
「ね?私、ちゃんとリスク管理もしてるのよ。感情の乱高下には注意して、冷静に対応してるでしょ?」美咲は自信満々だ。
「うん、確かに。最近の君のリスク管理は完璧だ。俺が疲れて帰ってきたときも、いつも穏やかにしてくれてるから、変動に動じない優良株だよ」と健一は笑いながら答えた。
「ありがとう。でも、株価が上がりすぎると、売られないように注意しなきゃね」と美咲がウィンクした。
健一は声を出して笑った。「いやいや、そんな心配はないよ。この投資、長期保有の方針だから」
こうして、夫婦の機微は、まるで市場の動きのように浮き沈みを繰り返しながらも、確かな信頼のもとで成り立っていた。健一は新聞をたたんで、美咲の隣に座り直し、二人は穏やかな夜を過ごした。夫婦関係も、やはり長期的な視点で大事に育てるべき「最高の投資」なのかもしれない。