葬儀が無事に終わり、佐藤家の親族や友人たちは火葬場へ向かう準備をしていた。ポチもまだその場におり、まるで「自分も一緒に行くべきだ」と言わんばかりに家族の足元をうろうろしていた。しかし、火葬場には犬を連れて行けないため、一郎がポチを家に連れて帰ることになった。
「ポチ、今日はここでお留守番だよ。太郎じいちゃんのこと、ちゃんと見送ったから大丈夫だよ。」
一郎はそう言いながら、ポチを家の庭に置いてきた。そして、再び家族や親族たちと一緒に火葬場へ向かう。皆が静かに車に乗り込み、車が出発しようとしたその瞬間、遠くから「ワンワン!」とポチの声が聞こえた。
「またかよ、ポチ……」と、一郎は思わず苦笑した。
火葬場に到着し、太郎の遺体を火葬にかける時間が近づいた。親族たちはまた厳かな雰囲気の中で、太郎に最後の別れを告げることに集中していた。しかし、その最中、どこからともなくポチの「ワンワン!」という声が再び聞こえてきた。
「えっ、まさか…?」
振り返ると、なんとポチがどうやってか庭から抜け出し、家族を追いかけて火葬場まで来ていたのだ。佐藤家の親族たちは驚きつつも、ポチの執念に感心するしかなかった。
「ポチ、すごいね。本当に太郎じいちゃんが大好きだったんだね」と、一郎の母が呆れたように笑いながら言った。
「これも、太郎じいちゃんの仕業かもな」と、今度は太郎の息子である佐藤次郎が冗談めかして言った。周りの親族たちも、思わず笑ってしまった。
ついに火葬の時間が訪れ、親族たちは再び厳粛な気持ちで見守っていた。ポチも太郎のために、火葬場の外で静かに座って待っていた。しかし、火が灯された瞬間、今度はポチが小さく「クゥーン…」と悲しそうな声を出し始めた。まるで、太郎が完全にこの世を去ってしまうことを理解したかのようだった。
家族はその様子に胸を打たれ、涙を浮かべる者もいた。だが、そんな厳かな瞬間も長くは続かなかった。火葬の火が強くなると、突然煙突から黒い煙が立ち上り、その煙が風に乗って火葬場の近くにいた親族たちに直撃してしまったのだ。みんなが慌てて煙を避けようとする姿に、再び笑いが広がった。
「太郎じいちゃん、最後の最後までみんなを笑わせるつもりだったんだね」と、一郎がポツリと呟いた。
そうして、太郎の葬儀は悲しみと笑いが絶えないものとなり、家族全員が太郎の存在の大きさを改めて感じる日となった。ポチもまた、太郎との絆を示すかのように、最後までその場を離れず、家族と一緒に太郎を見送った。
火葬が終わり、親族たちが帰宅すると、ポチはまるで満足したかのようにその場でゴロンと寝転がり、深い眠りについた。
「ポチも疲れたんだね」と、一郎は笑顔でポチの頭を撫でた。太郎の笑顔が脳裏に浮かび、家族たちはその日の夜、穏やかな気持ちで太郎を思い出しながら静かに眠りについた。
こうして、佐藤太郎の最後の別れは、彼らしい温かさと笑いに包まれたものとして、家族の心に深く刻まれた。