夕日が山の向こうに沈み、夜の帳が降りるころ、おじいちゃんとおばあちゃんは家の中に戻ります。電気をほとんど使わない二人の家は、夜になるとろうそくの柔らかな光に包まれます。蛍光灯の明かりとは違い、その暖かい光が部屋全体をやさしく照らし出します。おばあちゃんは夜になると必ず火鉢を出して、炭をおこしながらお茶を入れるのが日課です。
「今日は冷えるねえ」とおばあちゃんが言うと、おじいちゃんは笑いながら「だからこそ、この火鉢のありがたみがあるんだ」と答えます。二人は火鉢のそばで温まりながら、昔話をするのが大好きです。おじいちゃんが若い頃、どれだけ無茶な冒険をしたかや、おばあちゃんが昔からどんなに元気だったかを話しながら、笑い合います。
時には、二人で昔の遊びを楽しむこともあります。おじいちゃんは竹で作った笛を取り出し、素朴なメロディーを吹きます。それに合わせて、おばあちゃんが手拍子を打ち、即興で歌を歌うことも。歌詞はいつもその時々の思いつきで、面白おかしいことばかりです。「おじいちゃんは今日も畑で泥だらけ、靴を履いてもすぐにぬれる!」とおばあちゃんが歌うと、おじいちゃんは「そんなこと言って、おばあちゃんも漬物ばっかり漬けてるんじゃないか」と返し、二人は笑い声を響かせます。
孫たちが泊まりに来た時も、夜は特別です。おじいちゃんが夜空を見上げて、「今日は星が綺麗だぞ」と言うと、孫たちは慌てて外に飛び出していきます。都会では見ることのできない、満天の星空が広がっています。星座の名前を知らないおじいちゃんは、星を指差しながら「この星はきっと、遠い昔に畑を耕したお百姓さんが見ていた星だな」とか、「あの星は山の神様だよ」と物語を作り出します。孫たちはその話に耳を傾けながら、星空を眺めることがとても楽しいのです。
おばあちゃんはその間に、自分の作った手作りのお菓子を持ってきます。たくさんの栗やサツマイモを使った素朴なお菓子は、電子機器で見たおしゃれなスイーツにはない優しい味わいです。孫たちは夢中になって食べ、「またこれが食べたい!」と喜びます。
夜も更け、孫たちが布団に入ると、おじいちゃんとおばあちゃんはその姿を見守りながら、また静かに語り合います。「電子機器がなくても、こうして家族が集まって楽しく過ごせるのはいいもんだな」とおじいちゃんが言うと、おばあちゃんも頷いて「私たちの時代はこんな風に何もなかったけれど、それが一番豊かだったのかもしれないね」とつぶやきます。
二人にとって、何かを所有することや、便利さを追い求めることが幸せではなく、自然の流れと共に暮らし、家族と笑い合うことこそが、本当の豊かさなのです。電子機器がないことで失うものもあるかもしれませんが、それ以上に、彼らは何にも代えがたい時間と幸せを手にしているのでした。