笑えるエピソードシリーズ

相場師に「相場師」って言ったら苦笑

ある日のこと、僕は取引先のベテラン相場師と一緒にランチをしていた。彼は市場で長年戦ってきた猛者で、常に冷静沈着で、どんな状況でも感情を表に出さないタイプだった。そんな彼との会話の中で、ふと「そういえば、あなたみたいな相場師の方って…」と何気なく言った瞬間、彼は一瞬驚いた表情を見せた。

その後、微妙な沈黙が続いた。あれ?何か失礼なことを言ったかな、と思っていると、彼が肩をすくめて苦笑いを浮かべた。そして一言、「『相場師』って、なんか古臭いね」とポツリ。

僕は、しまった!と内心焦った。確かに「相場師」って、ちょっと時代劇っぽいというか、今の時代にはあまり聞かない言葉だよなと気づいた。でも彼の笑いに助けられた僕も思わず笑ってしまった。

「いやいや、悪い意味で言ったんじゃないですよ。尊敬の念を込めての『相場師』ですよ!」と慌てて弁明すると、彼は「まあ、そういうことにしておこう」と再び微笑んだ。

結局、その日のランチは和やかな雰囲気で終わり、僕は「言葉選びって大事だな」と心に刻んだのでした。

その日以降、僕は慎重に言葉を選ぶように心がけていた。特に取引相手やベテランの方と話すときは、無意識に言葉遣いに注意していた。けれども、あの相場師の彼とはすっかり打ち解けて、言葉のやりとりにも軽い冗談が増えていった。

ある日のこと、取引が思ったよりもスムーズにいかず、少しイライラした空気が漂っていた。ふとしたタイミングで彼が一言、「君もそろそろ『相場師』の道を極めるんじゃないか?」と冗談めかして言った。

その瞬間、あの苦笑いのエピソードがフラッシュバックして、僕は思わず吹き出してしまった。「いや、それだけは勘弁してください。『相場師』なんて肩書き、僕には重すぎますよ!」と返すと、彼も大声で笑い出した。

「ああ、でも昔は本当にそう呼ばれてたんだよ」と彼は続けた。「特にバブルの頃は、自称『相場師』が山ほどいた。どこかのサロンで情報を掴んで、得意げに自慢する奴らがね。けど、そんな人たちは結局、あっという間に消えていったよ。真の相場師は、静かにコツコツとやるもんだ」

僕はその言葉に、彼の長年の経験と深い哲学を感じた。「なるほど、相場ってのは長い目で見るもんなんですね」と僕は頷いた。

彼は一瞬、真剣な表情を見せたが、すぐに笑みを浮かべて、「でもまあ、たまには自分を『相場師』だと思ってみてもいいんじゃないか?」と茶目っ気たっぷりに言った。

その言葉に僕も笑いながら、「じゃあ、今日は少しだけ相場師気分を味わってみますか」と応じた。そして僕たちは、その後の取引に向けて気を引き締め直し、再び市場に挑んでいった。

それ以来、「相場師」という言葉は、僕たちの間でちょっとしたジョークとして使われるようになった。最初は少し古臭いと感じたその言葉も、今ではなんだか誇りに思えるようになってきた。