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◾静かな食卓にも、灯を
年金で暮らすようになってから、毎日の食事が少し重荷になった。
「食費を減らさなきゃ」と思いつつ、
スーパーに並ぶ値札を見ては、ため息が出る。
それでも、人は食べなければ生きていけない。
どうせ食べるなら、少しでも心が温まる食卓にしたい。
節約とは“削る”ことではなく、“工夫する”こと。
この感覚を持てるようになってから、
私は台所に立つのが少し楽しくなった。
◾ 冷凍庫を味方につける
一人分の料理で困るのは、食材を余らせてしまうことだ。
だから私は、冷凍庫を最大限に使う。
鶏むね肉は安くて万能。
買ってきたその日に、一口大に切って、
味噌・しょうゆ・塩麹・カレー粉などで
それぞれ味をつけて小分け冷凍しておく。
これをその日の気分で焼くだけで、
飽きのこない「メインおかず」ができる。
野菜も意外と冷凍できる。
きのこ類は石づきを取ってほぐし、
人参は千切りにして少し茹でて冷凍。
「味噌汁の具」に困らないし、
炒め物にもサッと使えて便利だ。
冷凍庫の中に“自分専用の小さな市場”を作る。
それが、節約の第一歩になる。
◾ ごはんは2合炊き、手のひらサイズで分ける
一人暮らしだと、「炊きすぎて残す」か「足りない」のどちらかになりやすい。
私は2合を炊いて、1膳ずつラップで包み、冷凍するようにしている。
平たく包んでおくと、電子レンジでムラなく温まる。
おかずがない日も、炊きたてのようなごはんに
味噌汁と漬物があれば、十分に満たされる。
お米は安いけれど、手間をかけるほどおいしくなる不思議な食材だ。
「節約ごはん」の主役は、やはり白いごはんである。
◾ 缶詰・乾物・卵の三種神器
節約を続けるうちに気づいた。
「安い食材は、保存がきく」ということ。
ツナ缶に大根おろしを乗せてポン酢をかけるだけで、
立派な一品になる。
卵は、ゆで卵・卵かけ・オムレツ…と、
一人暮らしの万能食材。
乾物も侮れない。
切り干し大根、ひじき、高野豆腐。
水で戻して軽く炒めるだけで栄養満点。
冷蔵庫に何もない日でも、
乾物があれば「食べる安心」がある。
保存が効くものを常備しておくことで、
無駄な買い物が減り、心にも余裕ができる。
◾ 節約とは、心を整えること
節約と聞くと「我慢」のイメージがあるが、
本当は心の整理整頓に近い。
お金を使うところと、使わないところを見極める。
見栄や惰性で買っていたものを見直すと、
暮らしの中に“自分らしい形”が見えてくる。
一人の台所でお湯を沸かす時間、
包丁の音が静かに響く夕暮れ。
そこにあるのは、
お金では買えない充足感だ。
◾ 「自分のための一膳」を
一人暮らしの食卓は、時に寂しくもある。
けれど、誰のためでもない“自分のための一膳”を丁寧に用意する時間は、
人生のなかでとても尊い。
節約とは、貧しさを受け入れることではなく、
小さな豊かさを自分の手で見つけること。
今日もまた、冷凍ごはんを温め、
味噌汁の湯気の向こうに、静かな幸せを見る。